アーク・ブラッド A.D.5000のアダム

今回は榊一郎先生の『アーク・ブラッド A.D.5000のアダム』の感想です。
主人公・峰部明久は妹と高校から帰る途中、事故に巻き込まれ重傷を負ってしまう。現代医学ではどうしようもなく医学が進歩するまでコールドスリープされることになり、目が覚めるとそこは三千年後の未来だった。三千年後の世界では地球外生命体の侵攻により人類は滅亡の危機に晒されていたが、侵略体に対抗すべく少女たちが操る防衛兵器「強化外装機官」に旧人類である明久が共に乗り込むことで侵略体を打倒する力を得られるという。遥か未来で目覚め、侵略体と戦うことになった明久の運命は?
といった内容で、設定だけ見ればライトなSFですね。実際、侵略体の遺伝子汚染を克服するために度重なる遺伝子操作を行った結果人類は様々な独自の進化を辿ったり、その過程で遺伝子上の差異から人類同士での争いが起こり幾つもの文明が滅んだりとバックボーンとなる設定はかなり作りこまれていますが、あとがきで作者が仰っていたり編集さんが意図するように基本はハーレムもののようです。遺伝子操作やなんやが原因で男女比が1:8だったりしますし、強化外装機管は搭乗者の遺伝子を読み取って構成されるため、操作を繰り返し先細った現人類の遺伝子よりも旧人類である明久の有用な遺伝子を後世に出来るだけ多く残したいといった思惑があったりと、今のところSF的設定はこのハーレム展開を正当化するための下地といった感じですかね。ただ、しっかりと設定が固められている上、流石はベテラン作家というべき安定感抜群の読みやすさから、多くのハーレム物に感じるような食傷感は殆ど感じませんでした。あとがきにある「ハーレムだけどコメディじゃない」というのも大きいのかもしれませんね。
設定自体はかなり深刻で絶望的な世界観だったりしますが、その点にあまり焦点が当たっていないのもハーレムがメインとしてとらえられる理由ですかね。まぁ現状ではまだまだプロローグ、今後ヒロインたちと子作りだ!という完全なハーレム主体になるのか、侵略体との戦闘や人類の存亡云々を絡めてシリアスさを押し出していくのかは分かりませんが、どちらにしても先が気になるのは間違いありませんので、出来るだけ早めに続きを出していただきたいですね。ほぼ出番が無く放置されている妹の今後の扱いも気になるところですし。
いやぁそれにしても久しぶりに榊先生の作品を読みました。『君の居た昨日、僕の見る明日』以来だから何年ぶりだ?文章の読みやすさは相変わらずピカイチで、他の作品にも触れてみようかと思いましたね。今からポリフォニカシリーズを追いかけるのも大変そうだしチャイカあたりがいいんでしょうか。