東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる

東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる (ファミ通文庫)

東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる (ファミ通文庫)

今回は森橋ビンゴ先生の『東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる』の感想です。
相手の気持ちを知ろうとすること、それが“付き合う”ということである。今回はそんな話です。
1巻で綺麗に終わっていたので続きが出ることに驚きましたが、魔法もバトルもない純粋な青春恋愛小説であるが故にこの物語に明確な終わりは存在しないんでしょうね。そんなわけで付き合いだした瑛太と侑子のその後を描いた物語。付き合いだしたことで本人達のみならず、2人の周囲の環境も少しづつ変化し始め、その変化が不安となり視界が狭まっていく。相手は自分のことを好きだと思ってくれているのか?自分の好きという気持ちは本物なのか?その問いに対する答えを得るためには相手に直接尋ねる他ないわけですが、最悪の事態を想像してしまうと前に進む勇気が持てない。そんなもどかしさや不安、辛さが存分に凝縮された物語です。今まで他人との接触を断ってきた2人らしい話とも言えますが、これは何も恋愛に限ったことではなく家族や友人との“付き合い”でも同じ事でしょう。どこまで親しくなろうとも人が2人いれば心は2つで、その間には少なからず距離がある。その隙間に漂う空気が澄み切ったものになるか、暗く濁ったものになるかは当人の“付き合い”次第ですから。
1巻でもそうでしたが、ここまで清々しくド真ん中ストレートを投げ込んでくれると受け手としても気持ちいい事この上ないです。キレも抜群で、文句のつけようがありません。勿論真ん中直球ばかりではいつかは打たれますし、コースを突いたり変化球を交えたりもしなくてはならないでしょう。ただやはり、一点の曇りもない真っ直ぐの魅力というのは筆舌に尽くし難いものがあります。
今回も昨今の「ラノベらしさ」が極力排除された、青春の1ページがありのままに描かれた良質の青春恋愛小説でした。あくまで1ページですので、それこそ続きなんていくらでも出せるわけなんですが、そういう作品でもないでしょうし、出たとしてもあと1,2冊でしょうかね。読み終わった今現在、西園幽子の長編恋愛小説が物凄く読んでみたく思うのですが、いっそのこと最終巻は1冊丸々それでもいいんじゃないかなと思ってみたり。
今年最後の1冊がこの作品で良かったなと思いつつ、年内最後の更新終了。