ニーナとうさぎと魔法の戦車3

今回は兎月竜之介先生の『ニーナとうさぎと魔法の戦車3』の感想です。
さて、戦車乗りの女の子たちが理想の平和を目指す物語も3冊目。この巻で遂にメインヒロイン・アリスが登場!1巻を読んだ時は表紙などからドロシーさんが相方になるのかと思ったらそんなことはなく、2巻のテオドーレもニーナとペアになることはなかったですが、3巻にしてやっと主人公の相方登場です。ドクターからの命令でラビッツと同居することになったアリス。アリスと友達になろうと奮闘するニーナだが、アリスはそれを頑なに拒否してしまう。その不可思議な言動の裏には、アリスの驚くべき過去が隠されていた・・・、といったあらすじです。
本筋に関しては、アリスが登場して新展開が始まるというよりは前2冊の補足及びまとめの巻で、この3巻で第一部完となります。これまでに悪役として登場したマドガルドとテオドーレが再び描写されているのですが、ここでやっと2人を悪役としてある程度認識できるようになったかなぁと思います。マドガルドに関しては1巻終了時点であのザマだったのでフォローを入れてくれて読者としては正直助かりました。あのまま放置だったらどうしようかと思いましたよ。テオドーレに関しても今回の補足で印象は悪くなりましたが、悪役としては正しいですね。2人とも自分自身の確固たる意思を基に行動していたというのが分かったのは大きいです。それに比べて今回の敵のヴォルフは小物すぎるというか、とても分かりやすい悪党ではあるんですが分りやす過ぎるんですよねぇ。唯一解だなんだと言っている世界平和という名の独裁への持論が根底から破錠していることに気づいていない時点で、物語を盛り上げてくれる悪役には成り得なかったんでしょう。
アリスについては、出自があれなのであの扱いはしょうがないかなとも思ってしまいますが、ラビッツの掲げる理想によって救済される流れは相変わらず力強く描かれていて、劣勢を覆していくところのカタルシスは中々ですね。また、この作品の肝である「人間の強さ・弱さ」の描写も後半を中心に描かれているのですが、今回に関してはアリスやラビッツ周辺の描写に重点が置かれていたので、ナイサントの人々の描写が今までと比べて少し薄かったかなとも思いますが、今回があくまでアリス登場と物語の区切りをつける話だったと考えれば妥当でしょうか。
そんな感じで2巻が内容ぎゅうぎゅう詰めだった分、全体的に薄めに感じたかなぁという3巻ですが、マドガルドとテオドーレの補足と正ヒロイン・アリスの登場こそが今回のメインディッシュですので問題はないですかね。やっとメンバーが揃ったので4巻のエルザ☓クーを皮切りに今後はキャラの掘り下げが主体になるんでしょうかね。この作品の売りである人間の心情描写がこのまましっかりされていさえすればキャラ描写に比重が多少偏ったところで何ら問題はないので、そちら方面も期待したい作品ですね。