ニーナとうさぎと魔法の戦車2

ニーナとうさぎと魔法の戦車〈2〉 (集英社スーパーダッシュ文庫)

ニーナとうさぎと魔法の戦車〈2〉 (集英社スーパーダッシュ文庫)

今回は兎月竜之介先生の『ニーナとうさぎと魔法の戦車2』の感想です。
今回は前半がニーナが自分を売り飛ばした両親との再開や因縁の野盗との戦闘といった過去と対峙する話で、後半が新キャラ・テオドーレが掲げる理想に対して異を唱える話。話自体は十分面白かったんですが、如何せん1冊に詰め込みすぎというか、前半部分と後半部分できっぱり分かれてしまっているので2冊に分けても良かったんではないかと思ってしまいます。あとがきに「1巻から持ち越した問題をひとまとめにして解決するのが難しかった」と書かれているので兎月先生も相当悩んだんではないかと想像しますが、確かに分けてしまうと今度はテオドーレの話を持ち越すことになるのでそれは違うかなとも思ってしまいます。難しいもんですね。
前半の親の話だったり野盗の親分の話については特に言うことはないですかね。親という存在を欲する気持ちと過去に捨てられたことに対する憎しみとの間で葛藤する描写はなかなか丁寧に書かれていて、開拓村の住民の描写なんかも含めて1巻同様この作者は人の複雑な心情を書くのが上手いなぁと思います。
後半は、1巻のマドガルドのような自他ともに認める悪役が出てくるのではなく、正義は時として異なる正義と対立するという話。まぁよくある題材ではあるものの明確な解答のない議論の対立って結構好きです。ニーナたちラビッツが掲げる「全ての人が等しく救われる平和を目指す」という理想論と、テオドーレの「多くの人の幸せはその基となる多少の犠牲を必要とする」という現実論。当人たちの立場の違いなどもあり、どちらが正しいと一言で断じることはできない問題ではありますが、この作品においては前者が優先されるのはしょうがないというか当然ですね。なんせフィクションですから。物語の中には現実ではあり得ない未来への夢と希望がいっぱい詰まっているわけです。それでこそ物語です。ただ、テオドーレ側が多少利己的すぎたかなぁとも思わないではないですが、そこも感情が入ってくるほうが物語らしくなるということで納得しました。最善解を常に提示する機械なんてこの物語には求めていませんから。
前述通り、多少詰め込みすぎによる駆け足感は否めませんが、1巻の時も書いた「人間の心の強さと弱さ」は相変わらずしっかりと描写されていたので満足です。ラストについては、人によっては後味が悪く救いがないと感じてしまうかもしれませんが、私はかなり綺麗に終わったんじゃないかと思いますね。求めたものから求める過程、そして導き出した答えまで全て彼ららしいかなぁと。ニーナは納得しないかもしれませんが、平行世界の扉を見つけたらソーセージ投げ込んでおくのでそれで勘弁してくれ。