ニーナとうさぎと魔法の戦車

今回は兎月竜之介先生の『ニーナとうさぎと魔法の戦車』の感想です。
この作品、4巻が百合的に素晴らしいという噂を聞いたもんですから全巻揃えて一気読みだと意気込んでいたわけなんですが、実際に読んでみて少し見方を改めたいと思います。まぁ百合は期待しますがね!
世界観としては魔法の存在する世界。大国間で行われた魔動戦車などを用いた戦争は、魔力爆弾が投下されて生じた魔力波の影響で魔動兵器のほとんどが制御不能となったことで継続不可能となり、一応の終結を見た。しかし終戦の半年後、世界各地で乗り捨てられていた無人の魔動戦車が魔力波の影響により独りでに動き出し人々を襲うようになった。戦争自体は終わっても人々の生活はまだ危険からは解放されていなかった。そんな世界で主人公・ニーナも悲痛な過去をもち、放浪の身となっていたところを正義の私立戦車隊・ラビッツのメンバーに保護されるところから物語は始まります。
序盤のうちは過去の経験から大人を憎み、戦車を憎み、戦争を憎んでいたニーナが、人を殺さず戦争という概念を殺すと誓うラビッツのメンバーと交流するうちに本物の正義や人間の暖かさを知り心から平和を願う強い心を育んでいく過程がデビュー作とは思えないほどしっかりと表現されていて素晴らしいですね。途中、知人が戦死したり戦争犯罪人・マドガルドとの接触などで度々ニーナの心が闇に飲まれかけますが、そこも人間の弱さや戦争の悲惨さなんかが強調されていて、読んでいてなかなかに辛いものがありましたが胸に来るものもあるました。ニーナがまだ12歳であることを考えれば当然なのかもしれませんが、他のラノベにいるような決してブレない完璧超人なんかよりよっぽど共感できます。決して思い通りには行かない世の中で尚、夢物語のような平和を目指して時に傷つきながらも前進していく登場人物たちが描かれた希望に満ちたとても良い作品だと思います。
ただ、ラストの展開に少々不満を感じました。戦車一台で動く山や巨大ロボットに打ち勝つ展開はご都合主義なのは間違いないですが、まぁある程度は納得できますし読んでいる最中は展開の熱さから気にはなりませんでした。しかし、ラストのマドガルドの投降はどうしても納得がいきません。あれだけ好き勝手して悪に染まり己の力を誇示しようとしていたやつが12歳の少女に一喝されただけで「すまな、い・・・。」はないですよ。彼には最後まで悪を貫き通して欲しかった。彼の謝罪に彼の弱さを見出すのはさすがに無理がありますかね。
そんなわけで、最後の最後でちょっと拍子抜けしてしまいましたが、全体を通して戦争の悲惨さと人間の心の弱さ、そしてそれ以上の強さというものが存分に表現されていて、非常に満足いく作品でした。百合的にもエルザ☓クーなんかは結構見所がありますが、これは今後の掘り下げを待ちますかね。全体的に暗い設定や展開が前に来て、そこらのラブコメのように呑気な物語などでは決してありませんが、時にはこういう物語を読むのもいいかもしれません。よし、ソーセージ食おう。