東雲侑子は短編小説をあいしている

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

今回は森橋ビンゴ先生の『東雲侑子は短編小説をあいしている』の感想です。
普段滅多に行かないファミ通文庫の公式HPのFlashの雰囲気に一目惚れしてすぐさま本屋に買いに行ったわけなんですけど、良い作品に出合いました。ちゃんと各レーベルの公式はチェックすべきですねぇ。
本作はライトノベルらしさといったものは全くありませんでした。主人公の一人称視点で淡々と綴られる青春恋愛小説です。クラスメイトの東雲侑子が小説家であることをふとしたことから主人公が知り、長編の恋愛小説を書くために付き合ってくれと頼まれるという、そこだけ聞けばライトノベルらしい導入なのかもしれませんが、文章は非常に淡々としたものですし、物語も侑子と主人公の英太の甘酸っぱい青春の1ページを描いたものとなっています。付き合うことになったはいいが、相手が何を考えているのかが分からない。そんな恋愛につきものの不安や葛藤なんかを中心に描いていて、とても静かで、読んでいて心地いい物語でした。正直なところ、この作品はイラスト抜きで読みたかった。Nardack先生のイラストがマッチしていないというわけではないんですが、この作品にはそのようなラノベ的体裁は必要なかったかなぁと思います。また、この作品は英太視点ではなく侑子視点で読んでみたいとも思いましたね。いや、そこは描かれていないことで想像の余地が残されているからこそいいのか?
ギャグやコメディ、バトルなんていう昨今の典型的ラノベ要素をすべて排除した、純粋に少年と少女の恋愛の一幕を描いた良質の青春小説でした。このような静かな作品を求めているラノベ読者って結構いると思うんですけど、どうなんでしょうねぇ。出たとしても他の「いかにもラノベ」といったような作品のインパクトに負けてしまって日の当たらないまま「隠れた良作」なんて扱いに収まってしまいそうですが、時にはこんな清涼剤のような作品があってもいいと思います。