少女不十分

少女不十分 (講談社ノベルス)

少女不十分 (講談社ノベルス)

今回は西尾維新先生の『少女不十分』の感想です。ラノベ感想のカテゴリーが正しいのかは分かりませんが、まぁ作者的にも読者的にも、このブログ的にもこれでいいでしょう。
読み終えてまず思ったことは、この小説は西尾維新という小説家のファンのための本だなぁということですね。語り手である主人公の設定が西尾維新ほぼそのままで、序盤の語りから作者の私小説、過去回想か?と思わせられました。まぁそれも序盤だけで、主要人物の2人が出揃って舞台が整い、監禁生活パートに入ってからは、物語として面白くなるのに反比例して創作っぽくなり、主人公と作者を同一視させようとすることを放棄しているような気もしますので、この話のほとんどがフィクションであることは間違いないでしょうが、それでも西尾維新本人をモデルとしていることから、どこらへんかまではノンフィクションなんじゃないかなんて考えさせられてしまうところは、それこそ帯の10年間があるからこそなのかとも思ったりします。そこらへんを想像するのもファンにとっては楽しめる要素ではないかと。もちろん西尾作品初挑戦でも単体作品として楽しめる出来ではあると思いますが、この作品の前に1作品でも触れておいた方が、序盤の作者独特の言い回しへの慣れだったり西尾維新という作家に対する思い入れだったりが変わってくるかと思います。そういう私も戯言シリーズしか読んでいませんけどね。
本作の本筋については、親の偏った教育のよって歪な育ち方をした少女Uと作家志望の大学生の奇妙な1週間、及び最後の再会オチと、ありきたりである程度先の読める内容で、エンターテイメント性もあまりなかったりしますが、前述の通り後半部分は予想可能ながらも物語を追いかけていく楽しみを確実に持っていて、読者を飽きさせず純粋に楽しめました。
そんなわけで、叙述トリックや42章のUに語る話の場面など、西尾維新ファンであればあるほど楽しめる作品であることは間違いないでしょう。どこまでが事実なのかと想像してみるもよし、西尾維新という作家について考えてみるもよし、この作品の内容を念頭に置いて過去作品を読み返すもよし、と読み終わった後も色々な楽しみ方の残された西尾維新本だと思います。